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リース・ウシジマ from FUKUOKA

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2020年 イギリスF3 ローンチ

今回はF3アジアに出場する牛島リース選手について取り上げる。実際にはアメリカ生まれだが、福岡のほうが長いのでこれでいいだろう。うん。


2021 Asian F3 Championship でその名を知った人も多いだろう。当ブログではほぼ全ラウンドで進捗を報告してきた。Formula Regional相当の今回のレースでは、レッドブルジュニアでホンダ・ドリームプロジェクトのドライバーである岩佐歩夢と同じハイテックに所属している。岩佐は2021年シーズンのFIA-F3にこのチームからの出場が既に決定している。

公式HP:Reece Ushijima official website

ハイテックでの経歴は牛島の方が先で、2020年にはイギリスF3に同チームから出場した。この時のチームメイトはシリーズ2位を獲得したクシュ・マイニであり、彼はムンバイファルコンズからF3アジアにも出場している。

 

そんな牛島は趣味のカートをきっかけにドライバーとしてのキャリアを求め渡英。そしてカートの国際選手権に出場しイギリスF3に至る。SRSの身長制限にひっかかった彼の風貌は、今までの日本人ドライバーとはまた違ったエスニックな雰囲気をサーキットにもたらしている。アメリカから日本、日本からイギリスと、西へ西へと向かった彼の現在地をお伝えする。

経歴

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国籍:アメリカ合衆国 / 日本

出生地:カリフォルニア州ラグナヒル

生年月日:2003年1月13日

父は日本人、母はアメリカ人の間に生まれたリースは、2008年に家族と共に日本に移住する。カートと出会ったのは福岡インターナショナルスクールに通っていた2016年の事で13歳の時だった。A-oneサーキットという小さなカート場の前を通った事がモータースポーツにのめり込むきっかけとなる。年齢はまだまだ若年だが、本格的にカートを始める年齢としては晩年とも言える。

まだカートを始めて1年にも満たない2016年の終盤にはカートレースにも出場。

2018年には渡英と同時にカートレースチームのPiers Sexton Racingに加入。レースの基礎をそこで学び直し、フォーミュラ・フォード、MRFチャレンジとシングルシーターの経験を積みイギリスF3に参戦した。

2021年はF3アジアに出場。そしてイギリスF3への継続参戦を計画しており、今年はタイトル獲得に照準を定めた。その先にはFIA F3を見据えている。

渡英

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イギリスカート時代のリース

2016年にカートを始めて以来、「みるみるうちに上手くなった(父親談)」リースだが、2017年に参加したアメリカでのカート大会にてヨーロッパ勢の速さに衝撃を受ける事となる。そして2018年1月に渡英する。リースが15歳の時である。
イギリスへの渡航を決めたのは「キャリアを積むのであればイギリスかイタリアに渡欧を」と、フォーミュラで活躍する金丸悠の助言がきっかけだった。

 

リースは自ら情報を集め Piers Sexton Racing (PSR)というイギリスのカートチームを探し出した。ほとんどの強豪チームが実績のない彼を門前払いする中で、加入を許可した唯一のチームがPSRだった。

しかしながらイギリス国籍を持ち合わせない彼はそもそも個人でのビザの取得が難しい。学校とは違うPSRでは就学ビザは降りず、もちろん就労ビザは年齢的に無理だ。その点PSRは近隣の学校と提携しておりそこに通う事で国外選手のビザ取得の問題をクリアしていた。このような事情も重なりPSRを除いては選択肢がなかったのもまた事実である。

 

PSRオーナーのピアース・セクストンは、ハイテックのチームオーナーのオリバー・オークスの幼馴染だ。そしてスーパーフォーミュラに参戦していたハリソン・ニューウェイやジョーダン・キングのマネージャーでもある彼は、ヨーロッパのレース界では名が知れた人物である。PSRではルイス・ハミルトンのカート時代に彼を上回った世界王者を講師に招くなど、渡英後リースは質の高い環境でスキルを磨く事となった。

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ハミルトンに勝利したコーリン・ブラウン氏(左)と ピアース・セクストン(右)

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最初にステアリングの持ち方を矯正された。黒い部分はトゲがあり触れると痛い。

PSRでは約2年間に渡り指導を受け、渡英と同年の2018年にはル・マンで行われるカートの世界大会であるIAME世界選手権に出場。翌年の2019年にも引き続き出場し、並み居る強豪を凌ぎ4位で予選を通過する。最終的にはトップ20でレースを終え、日本のレースでは格上だった選手が下位に沈む中で好成績を残した。これが自身の成長の証となる。

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PSR カートチーム

またトレーニングと同時に現地の高校のBosworth Independent Collegeに通い学生寮に入寮。成績次第では金曜の授業の免除が許可されるなどトレーニングと学業を両立させる生活を送った。休校日はトレーニング、レース、ドライビングスキルの習得などで予定が埋まり、コース上に居ない日も近所のジムでトレーナーに指示されたメニューをこなし汗を流した。このようにイギリスでの生活では自制心を働かせる日々を過ごしている。

残念ながら2020年はパンデミックの影響で日本に戻ってのオンライン授業となってしまったが、PSRでの指導が終わった今後も卒業まで通う予定である。

マネージャー

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ピアース・セクストン(左)と ハリソン・ニューウェイ(右)

その後リースは自身のマネージメントをPSRのチームオーナー、ピアース・セクストンに依頼。当たり前の話だがシングルシーターでのレースというのは車を買えば参戦できる訳ではなく、マシンのメンテナンスやセッティング、運搬やエンジニアの手配に至るまで多岐にわたる作業が多い。その他にも日々のトレーニングやシミュレーターでの訓練、テストへの参加などが必要になる。これらの規模の作業となると個人の手に余る事がほとんどで、レースチームに所属して補助を委託する必要がある。それらチームとの交渉を行い、ドライバーと共にキャリアを切り開くのがマネージャーの役割だ。

 

一般的にはレース関係の知り合いを伝手にマネージャーと契約する事が多く、スクール加入がマネージメントにまで繋がったリースの例はむしろ稀だ。カートチームを保有し有望選手を見出し、その上マネージメントまで行うピアースの方式はむしろ少数派である。通常は一定の成績を残していなければマネージメントの契約にまで繋げる事も難しい。なのでカート大会での成績の重要度は決して低くなく、カートの世界でも強豪チームへ加入する事が望ましくなってくる。

MRFチャレンジ

リースは2019年のIAME世界選手権後にシフターカートでの練習を開始。体感速度が260㎞/h以上にもなるトランスミッション付きのカートを用いて、初めてのシングルシーターに備える事がその狙いだ。

そして2019年の12月にはMRFチャレンジに参加し、初めてのシングルシーターレースを経験する事になった。

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MRFチャレンジでのポールショット

インドのタイヤメーカーのMRFが主催するこの大会はF3の車体を用いて中東・インドで開催される。リースは15戦でファステストラップを3回、ポールポジション1回を記録し16台中7位でシリーズを終えた。

レースではバーレーンなどF1サーキットも舞台となり貴重な経験を積む事ができたと語る。この時のエンジニアは佐藤琢磨がイギリスF3に出場していた時のエンジニアであり、学びの機会としてはこれ以上ないシリーズとなった。

イギリスF3とハイテック加入

MRFチャレンジを終える前後にはM2コンペティションからフォーミュラルノー・ユーロカップへ出場する事になっていた。そこにパンデミックが発生し、スペインでのテストに向かう途中に国境が閉鎖されてイギリスに戻る事になったのだ。EU諸国への出入りが禁止されるなか、リースは生活の拠点であるイギリス国内でのレースを余儀なくされた。

 

そこでコーチ兼マネージャーのピアースはイギリスF3のチームとコンタクトを取り始めるが、その最中にハイテックがイギリスF3へ参加を表明したのだ。前述の通りピアースはハイテックのプリンシパルであるオリバー・オークスとカート時代からの旧知の仲で、話はすぐにまとまりハイテックからのイギリスF3出走が決定した。

ハイテックはニキータ・マゼピンを擁してFIA F2に2020年から参戦。同年のFIA F3ではリアム・ローソンなどレッドブルジュニアを受け入れ、それぞれのシリーズで好成績を収めた。

参考記事:Hitech 編

リースにとってはこの転換によってイギリスF3以降の道も照らし出される結果となったのだ。不幸中の幸いとはまさにこの事である。 

 

シングルシーター初年となった2020年のイギリスF3では2位を2回獲得。ファステストラップ1回を記録し、シリーズ11位でシーズンを走り抜いた。

F3アジア

2021年のF3アジアでも同じくハイテックから出場。執筆時点で第4ラウンドまで終了し総合11位に位置している。これはイギリスF3でチームメイトだったクシュ・マイニを上回るポジションであり、2020年の成長を21年の早々に確認する事となった。

しかしながらハイテックのチームメイトには後塵を拝した。F2やフォーミュラルノー 3.5、V8 3.5とキャリアの長いニッサニー、FIA F3で1年間戦ったスタネク、さらにはFormula Regional 車両を日本でテスト済みの岩佐との経験値の差が、特に予選において如実に表れるほろ苦い経験となったのも今回のF3アジアの一部だ。

リース本人も予選での車の限界をまだ確実に把握していないと語っており、他のドライバーとの経験値の差を実感している。今季はイギリスF3に再出場するリースだが、今後FIA F3を当面の目標とする彼にとっては新しい車両の感覚に苦しむ事もまた貴重な経験となるだろう。

ただその中でも第4ラウンドのレース3ではニッサニーの厳しいディフェンスを打ち破るなど、短期間のレースウィークにおいても確実に成長を続けている。

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ハイテックから出場した 2020年イギリスF3

昨年初めてのシングルシーターをイギリスF3で過ごし、2年連続の出場も間近に迫る。イギリスF3で今年好成績を残す事ができれば、コネクションが確立した強豪ハイテックからのFIA F3出場も夢ではない。格上と戦い続けた冬の経験を活かす事ができるのか。今季イギリスF3におけるタイトル争いを期待したい。

 

謝辞

掲載にあたり情報を提供していただいた牛島 中氏に厚く御礼を申し上げます。